魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 女性が自分の方に近づいて来ても、ラルフさんは身じろぎすらしない。
 そんな彼の手に女性は、そっと優し気に黒いナイフを握らせた。

「さあ……その手で、聖女シルウィーを殺すのよ。そうすれば、あなたはこれまで通り妹さんと、幸せな生活を送れるわ。目の前に広がる、悪い夢を忘れてね」
「…………そうだな」

 ぼそり――呟くと、彼のナイフを握る手に力が籠る。

 絶望を宿した瞳がカヤさんを見上げ、その後こちらを見据えて、私の身体を強張らせた。

「ラルフさん……」
「悪い……シルウィー様。俺はあんたを……殺さなきゃ。どちらかを選ばないといけないのなら……俺だけはっ、こいつのことを選んでやらなきゃいけねえんだっ!」

 絨毯敷きの床から身体を跳ね上げ、血を吐くような叫びと共に、ラルフさんがこちらに駆け寄ってきた。

 ナイフを握る右腕が、振りかざされる――!
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