魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 相変わらず、黒ローブの女性の顔は判然としない。しかし、切り裂かれたフードは一部はだけ、その耳に釣られた三角形の赤石のピアスがはっきりと見えた。

 彼女は投げつけられたナイフを忌々し気に蹴りつけ、地面を滑っていくのを見送ると、さらにラルフさんに言葉の毒を浴びせかけた。

「貴様……まさか、あれだけ求めていた妹の命を捨てて、赤の他人を生かそうと? いいのかしら……今頃その子は、信じ難い気持ちで、兄の裏切りを嘆いていると思うわよ?」

 だが、そんな言葉を聞いてもラルフさんは心揺らさず、しっかりと女性に向けて戦う姿勢を取った。

「黙れよ……分かった風な口聞くんじゃねぇ。俺も、カヤも、もううんざりなんだ。てめえみてえなやつの腐った目的に利用されるのはな! 絶対にあいつは、自分の命欲しさに他人を陥れることなんざ望まねえ! これ以上妹を侮辱しやがるなら、容赦しねえぞ!」
「ふん、お前などに何ができる……――!?」

 その決意を嘲笑うローブの女が、足元から立ち上がる炎に口を閉ざした。
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