魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 これも、きっと周りからしたらなんてことのないひと時なんだろう。
 でも私は、生まれた境遇もあってか、それらをずいぶんないがしろにしたまま、ここまで来てしまった。
 
 誰かと声を掛け合い、一緒の空間で出来事を共有したり……怒ったり泣いたり、笑ったりの――同じ感情を抱くこと。視線の先の誰かと触れ合うこと。
 それらを繰り返すことで、時には千切れ、消えてしまうような儚く頼りない絆を育てていく。それは果てしなく大変な作業だけれど、だからこそ、いつかなによりも貴重で愛おしい宝物へと変わってくれるのだ。

 たとえ血の繋がりとか、たくさんの思い出がなくたって、お互いにこれから大事にしていこうと思い合える人々であのなら……一緒に生きていく価値がある。そういう人たちのことを、家族って言うんじゃないのかななんて、そんなことを――。

「ど、どうぞ」

 だから、カップを差し出すこの手が震えるのは、願いと期待の表れなのだ。
 私という人間を彼らが好きになってくれて、ずっと一緒にいられるといいな……。そんな、何物にも代えがたい心からの想いの――。

 目の前で、ふたりがカップをゆっくりと受け取った。それは口元に持って行かれ、少しの後、唇が満足げな弧を描く。
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