魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「行くか……。今日は俺たち、一緒の時間を共有するんだ。余計なこと忘れて、楽しむことだけを考えようぜ」
「……そうですよね」

 このお出掛けは、別に何かの試験でも発表会でもなんでもない。スレイバート様の笑顔から、やっとそれを理解した私はようやく少しだけ肩の力が抜けて、彼の腕に体の重みを委ねた。

 私たちがこれから赴くのは、レーフェルの街。

 そこでは本日、初のデートなるものが行われる。かねてよりの約束通り、彼と婚約指輪を買いに行くのだ。もはや近々に結婚を控えた遅まきなタイミングではあるけれど、私たちにとって今後を占う大切な一日になるであろうことは疑いの余地もない。でも……。

(……それだけ、だよね?)

 異性と一緒のお出掛けというのに、どんなあれやこれやが含まれているのかは、私にとっては全くの未知。

 運命のダイスを握るスレイバート様の横顔は、悪戯っぽく微笑んでいるようにも見える。こちらを楽しませようとしてくれているのは確実だけれど……わくわくする反面、どことなく不安を隠し切れず、つい歩く歩幅が遅れがちになってしまう私なのだった。
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