魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~

2.その心の名は -realize-

 ボースウィン家のお膝元と言って差し支えないこのレーフェルの街でも、テレサの誕生日に合わせてお祝いが行われるようだ。街全体に心の籠った飾りつけが進んでおり、改めて公家の影響力というものを痛感させられる。

 いつもの五割り増し華やかで活気づいた、そんな通りの様子を車窓から眺めつつ、私は頬の赤みを隠せずにいた。ちらりと隣を覗くと、スレイバート様がにこやかな笑みをして尋ねてくる。

「なんだよ。文句でもあんのか?」
「い、いえ……」

 なにせこの人、乗車以降ずっと私の手を握ったまま離してくれないのだ。それも指の股までしっかりと合わせる繋ぎ方で、普段より密着度が高くて全然落ち着かない。
 初手からして、デートとはこういうものだったのか……という事実を突き付けられた思いである……。

 それでもなんとか平常心を取り戻すと、私は彼にエスコートされ、馬車から賑々しい通りへと降り立った。

「わあ、賑わってますね!」
「久しぶりの祝い事だから皆張り切ってんだな。いいことだ」
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