魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 領民たちの明るい姿が嬉しいのだろう、スレイバート様は口元から白い歯をのぞかせた。

 本日は護衛すら用意されていない、完全なふたりきりでのお出掛け。まあ、ボースウィン領一の魔法戦士でもある彼に喧嘩を売るような人間がいたら、いくら護衛がいたって命が足りない――というのが許可された理由なのだろうけど……。こうなってくると、今頃クラウスさんが胃痛で倒れていないか危ぶまれるところである。

 しかし……私も薄情なことに一旦街を回り出すと、すぐにそんなことも気にならなくなった。魔石店を経営していた際に滞在し見慣れていたこの街も、スレイバート様と回ると全然景色が違う。
 隣に彼がいるだけで、話している人の顔も、会話の空気感もこんなに変わるなんて。

 どうも町長さんが来訪を事前告知してくれていたのか、目立つ彼に人が群がることのないよう、衛兵たちがしっかりと交通整理してくれていた。お蔭で大きな混乱もなく、街歩きを楽しめている。ただし、上を見上げると……。

「きゃあああ~! スレイバート様のお出ましよ! 視線だけでもいいからちょうだい~!」
「なんて美しいの!? うちの旦那と同じ男とは思えない!」
「き~っ! なんであんな地味な子が、聖女で、スレイバート様の婚約者なのっ! 絶対私の方が美人なのにぃっ!」

 そのせいか、若い女性たちが屋根の上で小鳥のように鈴なりになって見物するのは避けられなかった様子。嬌声と視線が刺さる刺さる。
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