魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~

3.思わぬ顔合わせ -chaos-

 一年で最も穏やかに過ごせる季節。春の終わり。
 よく晴れた日の午後。たくさんの人々の来訪と共に、テレサの生誕祝賀会は開幕した。

 白を基調とした由緒正しきボースウィン城の壁面には、各地から取り寄せられた色とりどりの花々がバスケットに入れて飾られている。それらがゆらゆらと揺れる様は、おめでたい雰囲気を感じ取ったかのように楽しげだ。

 もちろん、祝い事には陽気な音楽も欠かせない。ここぞとばかりに領中から集まってきた音楽家たちが、来客たちの要望に応え色んな場所に陣取っては帝国縁の名曲を披露しチップを頂戴している。

 城内では着飾った紳士淑女から子供たちにいたるまでが、あらゆるところで会場となる、大広間が開くのを待ち侘びていた。その数は制限したにも関わらず、建物内に収まり切らないほどで、城壁の外にも雰囲気だけでも味わおうと多くの近隣住民たちが詰めかけている様子だ。

 その反面、忙しいのがお城に仕える人たちで、特に厨房は火の車。予想以上の来客に城の食糧庫が空っぽになりそうな勢いでシェフたちが鍋をじゃんじゃか掻き混ぜている。本来給仕など任されていないお針子や洗濯係、兵士までもが今日ばかりは身なりを整えキッチンカートを相棒に走り回らなければならない有様だ。

 そんな中、封鎖されている裏門からやっと帰ってきた主役のテレサが、顔を見せるなりぐったりと私に寄りかかってきた。町長さんの要望通り、レーフェルの祭りに午前中顔を出してきたのだ。
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