魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「だ、大丈夫? 大変だったみたいね」

 馬車から降りて来ただけでもう疲れた様子のテレサを出迎えると、彼女はさめざめと顔を覆いながら泣き真似をして見せる。

「お、お姉様……聞いてくださいまし。町長殿ったら、私をパレードに連れ回して街中を三周もさせた上、噴水広場で長いスピーチまでさせましたのよ。少しでいいですから、元気を分けてもらえますかしら……」
「あらら~……」

 彼女曰く、町長さんは周到にも専用のパレード部隊まで編成していたらしく、賑やかな音楽隊に囲まれ、『帝国とこのボースウィン領に、幸あれ!』と――二時間近くもずっと覆いのない馬車の上でにこやかに手を振らされ続けることになったそうな。

 いくら領民愛に溢れた彼女でも、今回ばかりは相当な負担になったみたい。私はくたくたになった彼女を広間横の待機室に連れて行くと、ソファに座らせ、メイドたちに用意してもらったお茶を飲ませてあげた。

「ふう……お姉様が隣にいてくださるおかげで、やっと心が落ち着いてきました。しばらくずっとこうしていたいのですが……」
「そうはいかないわ。今日はあなたのためのパーティーなんだもの。さあ、側に付いてるから、もうひと頑張りしましょ?」

 珍しく弱音を吐いた彼女の背中を支えて立ち上がらせると、奥にある更衣室へ。そちらでは、本日のために職人が腕によりをかけて仕上げたお色直し用の衣装と、腕利きのメイドたちがいざ、テレサを飾り立てん――と手ぐすね引いて待っている。
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