魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 きっと、これまでの色々な苦労が彼女の心を揺らしたのだと思った。公爵家の娘に生まれた重責や、母親のいない生活、父親を失ったことや……私がこちらに来てからもたくさんのことを彼女は乗り越えて来たから。

 背中が震え、上擦った嗚咽が微かに響いてくる。
 今まで頑張ったねという思いを込めて、そんな彼女の頭を撫でてあげた。私たちこそ、テレサには本当に感謝してる――そんな気持ちが言わずとも、身体の温もりを通して伝わっているといいのだが。

「いいなぁ……。そうだ、お兄ちゃん、こういう時は拍手だよ!」
「……そだな!」

 指を咥えていたにしていたカヤさんが、はっと気付いたようにそう呼びかけ、ラルフさんが手を大きく打ち鳴らし始めた。それに周りも同調してくれ気が付けば、会場中から温かな拍手が降り注いでいた。私は照れながらも、せっかく整えた化粧が崩れないようにハンカチでテレサの目元を優しく拭っていく。

(そうか……こうやって人の輪って大きくなっていくんだな)

 今日のこの出来事は、きっと私の記憶だけじゃなくて、たくさんの人の心に刻まれたと思う。
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