魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 カヤさんが着ているドレスは、確かに薄手でよく空気を通しそうだ。少し触らせてもらうと、絹と麻の中間のような不思議な手触りで、ふわっとしてとても軽い。涼しい地方に芽吹く風鳴草という植物から抽出したエキスで糸を染め上げ紡いであるそうで、定期的に生地の表面から熱を逃してくれるらしく、柔らかい若草色の色合いがなんとも優しげだ。

 カヤさんの後ろから近づいて背中越しにその感触を確かめつつ、テレサが愚痴った。

「でもその代わり、寒い時期は温かそうで羨ましいわね。こっちはその反対で、気付いたら雪が積もってるから、冬場はおちおち肌も出してられないの。手荒れやしもやけがひどいから、どこの家でも軟膏や身体を温める煎じ薬が欠かせないわ」

 そういえば、以前のテレサの手にはあかぎれが目立っていたっけ。お城に人が戻って来てからは、みんな彼女に絶対に水仕事には触れさせないし、もうそんなことはない。

「お酒に頼る人も多いし、日が落ちるのも早いから、気分が落ち込む人も珍しくない。風を入れないために窓を減らすし、日の光にも当たれなくて余計かしらね。だから時々、私もこっそりお母様の実家に避難させてもらうのよ」

 確かに思い出せば、冬場のボースウィン領の寒さは厳しいことこの上なかった。お城では常時結界魔法が張られ、ある程度の断熱はされている。にしてもそれが外になると、凍り付くような北風が纏わりついて、気を抜くと震えが止まらないのだ。レーフェルの街なんかで過ごしていた時は、何度風邪を引きかけたことか。
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