魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「あ、れ…………?」
気付けば私は、ふらふらと部屋を出た後ずいぶん長い距離を歩いていたようだ。
見慣れた一室の扉の前に佇みながら、氷のように冷たくなった手を、扉に添えていた。
スレイバート様の執務室――それを確認し、冷えた手のひらを自分の頬に当てて温めながら、私は室内へと耳をそばだてる。
(誰も……いないの?)
だが、ペンが紙を擦る音も微かない気遣いも、なにも聞こえてこない。
どうやら、いつもここで仕事をしているクラウスさんも、出払っていていないようだ。
先日、彼にもスレイバート様がどこに行ったのかを訊ねてみたのだが、私に行き先は告げないよう厳命されていたらしく、何も情報を得ることはできなかった。
『信じて待つのも婚約者の役目ですよ――』と、肩を叩いて優しく諭されたのを思い出し、ひとり残念な気持ちになってしまう。私はここにきてまだ、スレイバート様のことを信頼できていないのだろうか――……。
彼の残り香を辿るように、私は執務室にゆっくりと足を踏み入れる。
気付けば私は、ふらふらと部屋を出た後ずいぶん長い距離を歩いていたようだ。
見慣れた一室の扉の前に佇みながら、氷のように冷たくなった手を、扉に添えていた。
スレイバート様の執務室――それを確認し、冷えた手のひらを自分の頬に当てて温めながら、私は室内へと耳をそばだてる。
(誰も……いないの?)
だが、ペンが紙を擦る音も微かない気遣いも、なにも聞こえてこない。
どうやら、いつもここで仕事をしているクラウスさんも、出払っていていないようだ。
先日、彼にもスレイバート様がどこに行ったのかを訊ねてみたのだが、私に行き先は告げないよう厳命されていたらしく、何も情報を得ることはできなかった。
『信じて待つのも婚約者の役目ですよ――』と、肩を叩いて優しく諭されたのを思い出し、ひとり残念な気持ちになってしまう。私はここにきてまだ、スレイバート様のことを信頼できていないのだろうか――……。
彼の残り香を辿るように、私は執務室にゆっくりと足を踏み入れる。