魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 でも、それなら……。理由は言えないって言ったのは、なぜ?

「うぅっ…………――!」

 信じたいのに、信じ切れない罪悪感が、胸を突き刺した。
 ほんの一粒の疑念から始まった最低な感情が、胸の中にどんどん広がり始める。私はたまらず執務室から駆けだしていた。そのまま廊下を、パニックになりながら走る。

 彼が別の女性と隠れて会って関係を深めているかもしれないという妄想か。
 それとも、そんなにも彼を独占したいと思っている、醜い自分の心か。

 なにを恐れているのかも分からないまま、ただ逃げ出す。

(こんな自分……いや!)
「……おい!」
「離して!」
「離さねえよ!」
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