魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 途中で急に腕を掴まれ、私は感情的に怒鳴った。でもその人は私の腕を握ったまま強く引き留めると、こちらの顔を覗き込んでくる。その時に私は気付いた。自分の頬が涙でびしょびしょに濡れていることを。

「なんて顔してんだよ……放っとけるわけねーだろが。シルウィー様、いったいなにがあった?」
「ラルフさん……」

 赤い髪に囲まれた、気づかわし気な赤瞳がこちらを見ている。
 目の前にある心配そうな青年の面持ちがやっとはっきりと見えて、私の喉から、(せき)を切ったような嗚咽が漏れだした。
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