魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「へっへっ……んでもしあいつがマジで女と逢引きしてやがったら、さすがに一発お見舞いして、あんたの分までスカッとさせてやるぜ。そん時ゃシルウィー様も平手の一発や二発くらいぶちこんでやれよ。そしたらきっとあんにゃろう目を剥くぞ! よーし、楽しくなってきた。そうときまりゃ旅の準備だ、とっとと出発してスレイバートを捕まえてやる!」


 彼はばしっと私の背中を叩いて景気づけ、頼もしい笑みを浮かべて私を庭園から押し出していく。

 その笑みにはいかなる負の感情も感じられず、言葉に出来ない感情の波が私の胸を包んだ。

 こんなにも彼はいい人で、落ち込んだ私を元気付けてくれて……なのに――。
 謝罪の言葉がつい、口をついて出そうになる。けれど……今はそれよりも。

「ありがとう、ラルフさん」

 やっと浮かべることができた仄かな笑顔に、意志が固まる。

 確かめてみよう……私は弱い人間だから、そうせずにはいられない。それでもし、よくないことが起こっていても、また、その時考える。こうして支えてくれる人たちと一緒に。
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