魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 ヴェロニカ・セレーニテ。
 セレーニテ公爵家の一人娘であり、精霊の巫女でもある彼女の……まるで人外のような美貌がなぜだか恐ろしく、神殿長は直視できずに両目を閉じ、項垂れたまま問題を報告した。

「おくつろぎのところ、大変申し訳ありません。実は、現在少々面倒な事態が起こっておりまして。各地にて魔物による被害が多発し、多くの傷病者が出ております。特に……原因不明の瘴気騒ぎに陥ったリュドベルク領の者達が、早急に教会の治癒士をよこせとせっついてくるのですが……」

 精霊教会には、全国の貴族から多額の喜捨を受け取ることで成り立っている。ゆえに、強力な権力を持つ大貴族の要請は、非情に無視しがたいものがある。しかし現在、とある事情によって、教会の治癒士を動員出来ないことが増えており、神殿長はその対応に大変頭を悩ませていた。

 そしてそんな彼女の報告をヴェロニカも一蹴する。

「くだらない。突っぱねておきなさい。は……まったく自領の管理もろくに行えない間抜けどもが、なにをうるさく吠えているんだか。そうね……相手がそのつもりなら、こっちも強気で返せばいいわ。【祈りが届くのを待つのです。どのような災厄が訪れようと、信心深き者たちなれば、必ずや精霊様はそれらを愛し救いを賜るでしょう――】手紙にでもそのように記して、送りつけてやればいい。どうせ、癒しの奇跡を起こせるのは、私たちだけなのですからね」
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