魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「し、承知いたしました……」
深々と頭を垂れながらも、神殿長はそんなことができるはずがあるか――と心の中で叫んでいた。それでは命を助けてもらいたければ信仰を――つまり寄付を寄こせと脅しているのと同じだ。まだしもどこぞの盗賊の方が、叩き潰せば収まるだけ始末はいい。
しかし、このような無茶を耳にしても、神殿長は目の前のヴェロニカに意見しようとする気持ちはさらさら起きない。
彼女は知っているのだ。ヴェロニカに一言でも叛こうとした者が、いったいどのような目に遭って消えていったのかを。それを考えたなら、まだこうして機嫌を窺い、言う通りにしている方がいくらか被害は少なくて済む。
この様子では、上司と国との板挟みに遭い、これからもまた胃が痛い日が続きそうだ。
状況の改善がまったく見込めないことを悟りつつ……神殿長は極めて丁重に、頭を下げたまま次の議題を口に乗せた。
「そ、それとですね。もうひとつ、ぜひ聡明なヴェロニカ様の知恵をお借りしたき問題がありまして、実は……最近魔力回復室に収納した霊杖の動作が芳しくないと、治癒士たちから報告が上がっております。どうも、魔法を起動できる水準まで魔力が回復するのに、大幅に時間がかかっているらしく……その遅れが、現在の人手不足にも繋がっているようでして……」
「チッ」
ひ――と、喉元から出掛けた悲鳴を呑み込み、神殿長は床へと額を擦り付けた。
深々と頭を垂れながらも、神殿長はそんなことができるはずがあるか――と心の中で叫んでいた。それでは命を助けてもらいたければ信仰を――つまり寄付を寄こせと脅しているのと同じだ。まだしもどこぞの盗賊の方が、叩き潰せば収まるだけ始末はいい。
しかし、このような無茶を耳にしても、神殿長は目の前のヴェロニカに意見しようとする気持ちはさらさら起きない。
彼女は知っているのだ。ヴェロニカに一言でも叛こうとした者が、いったいどのような目に遭って消えていったのかを。それを考えたなら、まだこうして機嫌を窺い、言う通りにしている方がいくらか被害は少なくて済む。
この様子では、上司と国との板挟みに遭い、これからもまた胃が痛い日が続きそうだ。
状況の改善がまったく見込めないことを悟りつつ……神殿長は極めて丁重に、頭を下げたまま次の議題を口に乗せた。
「そ、それとですね。もうひとつ、ぜひ聡明なヴェロニカ様の知恵をお借りしたき問題がありまして、実は……最近魔力回復室に収納した霊杖の動作が芳しくないと、治癒士たちから報告が上がっております。どうも、魔法を起動できる水準まで魔力が回復するのに、大幅に時間がかかっているらしく……その遅れが、現在の人手不足にも繋がっているようでして……」
「チッ」
ひ――と、喉元から出掛けた悲鳴を呑み込み、神殿長は床へと額を擦り付けた。