魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 ――その時、指先に微かな震えを感じ、ぴくりと眉を上げる。

(ふん……)

 だが、久しく感じることの無い不気味な寒気を無視すると、彼女は勢いよく足を踏み出す。そして礼拝堂へと続く白く静謐な廊下へと踵を打ち鳴らした。

(……さあ、すべてを終わらせましょう。シルウィー、呪いの力を奪った後は、お前を磔にして燃やしてあげる。愛する男の隣でね。それが、新たに始まる嘆きと苦痛に塗れた世界への、狼煙となるのよ……!)

 その感覚が……幾度追い詰めようとも乗り越えてくるシルウィーへの怖れであることに、気付かないふりをして。
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