魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 手を庇にして通りの奥を見つめていたラルフさんが、突如私の口を塞ぐと、そのまま路地の陰に押し込んだ。何がどうしたのかもわからずに動転する私に対して、彼は口に人差し指を立てるとちょいちょいと、そこらにあった木箱に昇ってみるよう指で指示する。

(なんです……?)
(いいから、あっち見てみろ……)

 どこの誰が置いたものなのかも分からず、いいのかなぁと思いながら私が木箱に上がってみると、先程まで違って、通りの奥までがはっきりと見渡せた。背が低いと、人混みの中では他人の背中で遮られて、前の方が見えないのだ。

 その問題が解消されたことで、どうしてラルフさんがこうまでして私を隠れさせたのかがやっと明らかになる。

 今は遠ざかりつつあるが、通りの奥にその人は見えた。
 太陽の反射で眩いどころか、白い光の輪が映るほど美しい銀髪の主が……。

(あ、あれって……!)
(ちょっと待った、よく見てみな。隣に誰かいんぞ)

 見間違いようもないその姿に、ほとんどの通行人の視線が強烈に惹きつけられている。
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