魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 私もそれを隣で見ながら、胸の奥からどんどん切ない気持ちが湧き上がってくるのを感じていた。とてもふたりは他人同士には見えず……あまり表情を変えないながらもスレイバート様は荷物をすべて持ってあげ、時には丁重に彼女のことをリードしている。メレーナさんの方も、人通りの多い道ということもあってか、ほとんど肩が触れ合うような距離で彼と足並みを揃え、笑顔を見せていた。
なんだか、だんだんと私には……ふたりが街で見かける新婚夫婦のように思えてきて。

(ううぅ…………)
(な、泣くなって……。まだちゃんと話を聞いたわけじゃねーだろ)

 知らず知らずのうちに涙に濡れ始めた目元を擦っていると、ラルフさんが慰めてくれる。だが、その間にも、ふたりが仲良さそうに談笑し、視線を交わし合う姿に、私の胸のもやつきはどんどんと膨らんでいくばかり。

 通りの向こう側で、一台の馬車が勢いよく駆け抜けていった。
 スレイバート様がそこで素早く女性を引き寄せて庇い、なにか声をかける。すると女性の頬が赤らみ、彼の袖口を掴み、瞳をじっと見つめてはにかむ。

 そこでもう限界だった。
 眺めていることしかできないのが辛すぎて、私はそこで地面にしゃがみ込んだ。
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