魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 そして……目が合った。

「シルウィー……お前、なんで」
「ご、ごめんなさい……。私っ」

 涙でくしゃくしゃになった顔を隠そうとする私に、スレイバート様の厳しい視線が向く。

「お前の話は後で聞く……。だが……この場にまず一番に裁いてやらねーといけねえやつがいるようだ……」
「ああん!? なにを偉そうに! テメーがふらふらと他所の女に呼び出されてったせいで、この数日間、シルウィー様がどんな思いをしたと思ってやがる! 二発や三発じゃ済まねーぞ! 十発だ! 顔の形が変わるまでぶん殴らせ――」
「…………お前がこんなとこまで引っ張って来やがったんだな?」

 ゆらりと、スレイバート様は身体をラルフさんに向ける。その動作だけで十分だった。

 ラルフさんが威勢よく言い放った台詞は、即座に中断され……続いて、有無を言わさぬとんでもない低音で発された質問が、彼の動きをその場で縫い留めた。ラルフさんの表情が、怒りから警戒に変わってゆく。

「な……んだよ。てめーがシルウィー様に心配をかけるから――」
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