魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 そして例のメレーナさん当人は今は仕事中で、店を閉めて戻ってくるまでもうしばらくはかかるらしい。ということで、私達は帰ってくるまでここで待たせてもらうことになったのだった。

「いちち……なんでぇ。それじゃオレらの勘違いだったってわけか……。にしても、紛らわしいんだよ、距離は近いし、なんかべたべたしてっしさぁ」

 ラルフさんは、スレイバート様からの制裁を受けて、ところどころ服まで破けてぼろぼろだ。しかしあれだけ酷い目にあったのに、こうして平然と話していられるんだから……やはりとんでもなく頑丈なんだと思う。せめて、私が治癒魔法でも使えればある程度怪我は治してあげられるのだが、出かける前にテレサに聖属性魔力を少し分けておいてもらえばよかったか。

 そんな愚痴を受け、治療の手を動かしながら、ほんのりとフィリアさんが頬を染める。

「それはその……公爵様があまりにお美しいものですから、私もつい興奮してしまって、ですね……」

 婚約者としては気になるところだけれど、でもまあ、そうなるのはやむを得ないか。あのスレイバート様に至近距離から見つめられて平然としていられる女性は、きっと世の中でもごく少数派だ。フィリアさんは年頃でお、男性とお付き合いしたことがないそうだし……。
< 795 / 1,187 >

この作品をシェア

pagetop