魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 これは本来、私というかハクスリンゲン家の方が提示しなければならなかったこと。この婚約が、緊急的にボースウィン家が魔法士の血統を求めていたことに端を発するとはいえ、すべて人任せで知らぬ存ぜぬでいようとした私は、とても後ろめたい気持ちを感じた。

 だが、それ以上に……私の内心はひとつの重要な事柄に引き寄せられる。

(つまり――もしかしてここで、私がずっと知りたかったお母さんの生まれについてが、明らかになる……?)

 どくどくとうるさく跳ねる心臓を抑えた私の背中を、スレイバート様の大きな手のひらが支えてくれた。

「不安がらなくていい。別にこのことで、お前との結婚がどうのこうのとはならねえからな。それに、わざわざ俺が単独で話を聞きに来たのは、そもそもメレーナがろくでもねーやつだったら、会わせるつもりがなかったからだ」

 ということは、メレーナさんはスレイバート様のお眼鏡にかなう人物だったということだろう。孤児院だって、全員が善意で子どもたちの世話をしているわけではない。ここにいる子どもが幸せそうな顔をしているのは、上に立つ彼女が立派な人物な証だといえよう。
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