魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 かたや、この国で五指に入る権力を持つ公爵様。かたや、四大領地のひとつである大公爵家の次男坊である。帝国広しといえど、そんな男子たちを顎で使える女性がどれだけいることだろう……。同じ女性として、そのきっぱりとした強さを目の当たりにして、ずいぶん憧れを抱いてしまったものだ……。



 今も彼女は、薬づくりに必要なのか竈に火を付けて湯を煮たたせ、多種多様な薬草をテーブルの上で切り出すと、天秤で測った適量を小皿へと小分けしていく。流れるような手つきには寸分の淀みもなく、長年の熟練が感じられた。

「あんた、調薬の知識はあるかい?」
「……あ、えっと。はい、ある程度なら」

 視線も向けずに問われ、わずかに反応が遅れて頷くと……いくつかの薬の製法を口頭試験のように問われ、私は手順と共に答えていった。その辺りの知識は、実家とたまにボースウィン城で薬師さんの手伝いをしていたおかげで、頭の中に残っている。

「じゃあ、そうだね……この辺りの在庫が切らしちまいそうだし、作っといてもらえるか? 容器や器材の場所とか、分からないことがあったらあたしに聞いてくれりゃいいし。あたしはあたしで、別の仕事があるから」
< 806 / 1,187 >

この作品をシェア

pagetop