魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 それで納得したのか、彼女は数種類の薬剤を指定すると、すり鉢やフラスコといった基本的な調薬器具の場所を説明した後、自分はテーブルの上で書き物をし出した。

 といっても書類作業とかではなく、彼女が作成しているのはスクロールという、魔道具の前進にあたる品物だ。主材は魔力エキスに植物繊維を溶かした溶液を漉くことで出来上った特殊用紙。それに、魔道具にも使われている【魔術記号】という特殊文字を記載して作成する、一回こっきり使用可能な魔法のアイテム。

 これも魔道具と同じように、現時点ではそこまで複雑な命令は書き綴れないし、そもそも紙面に籠る魔力が尽きればただの紙きれに戻ってしまう。
 使い捨てで費用対効果に優れないため、使用用途はほぼほぼ緊急時、たとえば旅先で飲み水が足りなくなったり、火種が必要になったり……後は戦闘ができない人物の護身用などに限られる。いわば、旅人がお守り替わりに持ち歩くもの、というのが一般的な認識だろう。

 私も、手元のすり鉢で逆棘カズラと灰色クルミ(どちらも軽い毒を体外に排出する作用があるものだ)を砕き混ぜていきながら、ちらちらとその手つきを観察する。まるで判を押したように次々と綺麗な魔術文字を筆で描いてゆくその姿は、まさしく職人といった風情で、ついつい手を止めてしまい、慌てて私は気を引き締めた。
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