魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~

11.メレーナ・エルプセン

 ――あたしがあの子を拾ったのは、街中なんかじゃなく、人の踏み入らない、深い森の中だったんだ……。

 そんなメレーナさんの独白より始まったのは、私が生まれるよりも、さらに十年以上も遡った頃の話である。

 当時彼女は、まだ魔女として独り立ちしたばかりのころで、師匠の下を離れて小さな店舗を借りたはいいものの資金繰りは厳しく……日々あちこちの森を巡っては薬の元になる植物や森の恵みを血眼になって探していた。

 駆け出しのころはどんな仕事でも何から何まで手探りだ。知らない森の中は魔物や自然の罠といった危険で満ち溢れている。そんな中で毎日神経を擦り減らしながら薬剤にできるような草花を見つけては、地図に位置を書き留めていた彼女に、ある日――不思議な出会いが訪れた。

『……妙にここいらだけ魔力が濃い感じがすると思ったんだ。見つけた……! まさかこんなに大きな耀魔花の生育地があるなんてね。しかもまだ誰も手を付けてないみたいだ。しめしめ』

 ゲルシュトナー領の北東部にまたがる大森林で、見渡す限りの黄金色の花畑を発見したメレーナさんは小躍りしたくなった。

 耀魔花は魔力エキスの抽出元のみならず、各種治療ポーションの材料にも使われる非常に用途の幅広い花で、しかも天然物はかなり貴重だ。一株で魔石ひとつと同じほどの価値のある花々を、宝の山を目の前にした気分で荒らさないように丁寧に掘り起こしつつ、メレーナさんは自らの幸運に感謝する。
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