魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 メレーナさんは、少女を抱き上げると、これからの生活の大変さを思って苦虫を噛んだように唇を曲げながら、一度だけ少女の暮らしていた聖域を振り返った。

 ――まったく、苦楽は表と裏とよく言うけれど、とんだ土産を持って帰らなければならなくなった。それを嘆きながら、足を踏み出し離れてゆくメレーナさんの耳に、たった一度だけ――

『その子のことを、くれぐれもよろしくお願いしますね』
『――――!?』

 聞こえるか聞こえないかの微かな声が届いた気がした。

 しかし、振り向いてもそこには誰の姿もなく……どころか今まであった聖域も煙のように消えている。

『あう~……』

 少女だけは、自分の肩越しにいつまでも手を振り続けていたものの……。

(あたしたちの知らない世界ってのは、もしかしたらまだまだあるのかもね……)

 なんとなくメレーナさんは、その場所を二度と訪れることがないような気が、していたのだとか――。
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