魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
12.こうして会えただけで -pass down-
いつの間にか、長い前髪の奥からじっと私の瞳を見つめていたメレーナさんは、ふっと表情を和らげた。
「そんなわけでさ。その子にマルグリットって名前を付けた後、あたしたちふたりでの生活が始まったってわけだ。最初はひどいもんだったさ。あの子は人間の常識なんてものをひとつも持ち合わせてやしなかったんだから。それでも、頭の出来はよかったからね。言葉とか、人としての常識を身に着けてくのにそこまで時間はかからなかった。多少お転婆なきらいはあったにしろ、二、三年もすりゃふつうの女の子として街に溶け込んでたよ」
カコン、と灰を皿に落とした後、メレーナさんはぐるりと建物の中を見回した。きっと、このそこかしこに、母と過ごした思い出が刻まれているのだろう。
彼女は、最後に斜め下に視線を落とすと、テーブルの上をそっと撫でた。
「今日のあんたみたいに、こうして隣でよく一緒に仕事したもんだ。ただあの子は……魔法だけは頑なに使おうとはしなかったね。才能があること知ってたあたしは、ちょっとした手ほどきだけでもしておいてやろうと思ったんだけど……」
彼女は少しだけ寂しそうに笑ってみせた。
「そんなわけでさ。その子にマルグリットって名前を付けた後、あたしたちふたりでの生活が始まったってわけだ。最初はひどいもんだったさ。あの子は人間の常識なんてものをひとつも持ち合わせてやしなかったんだから。それでも、頭の出来はよかったからね。言葉とか、人としての常識を身に着けてくのにそこまで時間はかからなかった。多少お転婆なきらいはあったにしろ、二、三年もすりゃふつうの女の子として街に溶け込んでたよ」
カコン、と灰を皿に落とした後、メレーナさんはぐるりと建物の中を見回した。きっと、このそこかしこに、母と過ごした思い出が刻まれているのだろう。
彼女は、最後に斜め下に視線を落とすと、テーブルの上をそっと撫でた。
「今日のあんたみたいに、こうして隣でよく一緒に仕事したもんだ。ただあの子は……魔法だけは頑なに使おうとはしなかったね。才能があること知ってたあたしは、ちょっとした手ほどきだけでもしておいてやろうと思ったんだけど……」
彼女は少しだけ寂しそうに笑ってみせた。