魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が？ ～傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた～

　フィリアさんが、野菜を細かく刻んでいた手を止める手を止めると、はっとした表情を私に見せる。

「私は……シルウィー様のように綺麗な服を着て、美味しいものを食べて、せせこましく明日の心配をしなくてすむ贅沢な暮らしが羨ましい。でもそれは……色々なものと引き換えになっていたんですね……」

　視線を俯かせた彼女の手の上に、私はそっと自分のものを重ねた。ところどこらが荒れて堅くなりひび割れてきた手から、私はこれまでの彼女の苦労を少しだけ感じ取れた気がする。

　私と彼女は、同じ人間になることは一生できない。できることがあるとしたら……彼女たちを尊敬しながら、これからも自分の人生を、できる限り全うしていくことだけだ。

「フィリアさん、私も……あなたたちに恥ずかしくないよう、頑張って生きていきます。私にあなたの代わりはできないから」
「はい……分かっています。私、魔法は使えないですけど、いつかメレーナさんの跡を継がせてもらえたらいいなって思ってるんです。魔力はなくても、作り方を知っていれば魔法の道具は生み出せますから。それに……孤児院の皆の世話も続けていきたいですし」

　ぐっと彼女は袖で目を擦ると、私にぱっと笑いかけた。