魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~

14.たった二文字 -4 letters-

 見上げれば、すべてを覆う闇色の空が、あらゆる音まで包み込んでしまったかのような――。

 そんな静かな一夜……。孤児院の食堂の片隅でぼんやりと月の光に浮かび上がったスレイバート様の姿を、私は息を潜めるようにして眺めていた。

 院の子どもたちはとっくにフィリアさんに連れられて寝床に入り、すっかり酔っぱらった赤ら顔のラルフさんが、「……ちくしょぉ、オレぁどーして、なにをやっても勝てねぇ……んが」と床の上で悲し気に寝言を呟いている。

 そのお腹の上に毛布を掛けた後、私は窓際で静かにグラスを傾けるスレイバート様に声を掛けたものかどうか、なんとなく躊躇ってしまっていたのだった。

 ――食事会は大盛り上がりで、メレーナさんが作ってくれた料理はそれはもう、ほっぺが落ちるほどに美味しかった。
 オーブンで焼き上げられた鴨肉のローストに、バター薫るサクサクの焼き立てパン、香辛料がばちっと聞いた魔女特製ピリ辛スープにマッシュポテトのクロケット。それらは食欲旺盛な子供たちのみならず、若い私たちの胃袋も刺激して、皿の上から魔法みたいな消え方をした。

 その後は、子どもたちが後片付けをこなしてくれて、私たちはメレーナさんとゆっくりお酒を飲みながら語らうことに(ちなみに私も試そうとはしてみたが、アルコールはどうも体質に合わず、断念した)。でもそんな中、相変わらずスレイバート様とラルフさんはいがみ合い、今度はどちらがお酒に強いか対立し合う始末。
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