魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 それにメレーナさんも乗っかって、フィリアさんと私が子どもを寝かしつけている間に、相当騒がしく楽しんでいた様子だった(ほとんどラルフさんがはしゃいでいただけだったらしいけれど……)。

 結果、予想通りというかラルフさんが一番早くに酔いつぶれ、それを見て満足したメレーナさんも「あたしゃもう年だからほどほどにしておくよ」と、スレイバート様に勝ちを譲って食堂から消えてゆき、今起きているのは、彼と私だけ。

 フィリアさんも戻ってくる気配はないし、きっと子供たちと一緒に寝てしまったのだろう。ぐでんと横たわるラルフさんを別として――久しぶりのふたりきりの暗い空間にどぎまぎとしながら、私は足音を立てないよう、スレイバート様のもとに近づいていく。しかし……。

 彼はなにか考えごとをしているのか、サイドテーブルに頬杖を突いたまま動かない。窓から覗く星空をじっと眺め、照明を落とした室内で純白の月光に包まれたその姿は、魂まで吸い寄せられてしまいそうな美しさで……。まるで、彼との間に見えない壁があるかのように、私は不自然に途中で立ち止まってしまっていた。

「…………突っ立ってないで座れよ」
「――――はっ……! す、すみません!」

 半ば放心していた私は、スレイバート様の言葉を途中から聞き取ると、弾かれたようにいそいそと、向かいの空いた席に腰を下ろした。
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