魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 たとえ小さな村ひとつでも、見逃さずに心を砕こうとするスレイバート様の姿。そして、今までの自分を恥じる気持ちが、私に自然と祈りの仕草を取らせた。

(……せめて、少しだけ祈らせてください)

 こんな行動が誰かの慰めになるわけではないと、分かっているけど……でもせめて、そうせずにはいられない。

 ――どうか、この領地の人々の暮らし向きがよくなりますように……。
 ――スレイバート様の呪いがわずかでも治りますように……。

 深く深く、ただ一心に。心から彼らの身を案じる。それは、魔法の訓練にあるいつもの瞑想とよく似ていた。

 魔法を発動させるためには、強いイメージが必要だ。それをもとに、身体の中で生み出した魔力を現象に変換し、現実のものとしてこの世に現すのだから。
 ゆえに魔法士を志す者は、自分の頭の中に、自分だけの世界を作り上げることができなければならない。

 ふたつの目を閉じた暗闇の中、少しずつ身体の感覚が遠ざかる。いつもの瞑想の時と同じ、終わりの見えないくらい洞穴の奥へ、想像の私は一歩ずつ踏み込んでゆく……。
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