魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「んなもん、俺の方がずっと好きに決まってんだろ」
「――――!」

 力を抜いていた彼の手が、背中を抱き、ぐっと強く引き寄せる。

 反対の手をおとがいに触れて持ち上げ、彼は次の瞬間、反論できないように唇で唇を塞いできて――。

 ワインの甘さと、男性ものの香水の毅然さが溶け合った香りに、意識が蕩けそうに揺らいでくる。
 呪いを解いた時のような、必要に迫られた義務的なものじゃなくて……今度は、恋人同士の本気のキス。

 ちらりと目蓋の隙間から彼の顔を覗くと、妖艶な紫の瞳が針のように細められていて、ぞくりとする。薄皮一枚の距離で彼の体温を感じながら、息の続く限り唇を合わせる。終わったと思ったら、もう一度。またもう一度。角度を変えて何度も交わされる口づけは、私にとってあまりに刺激的すぎて――。

「っ、ふ……こ、これ、以上は……」

 はぁ、ふぅ……と、か細い吐息が液体と共に口の端から零れ、私は顔を背けて指先でそれを拭った。身体のあらゆる感覚が過敏になり……これ以降は多分、この場でするには倫理的にも精神的にも問題があり過ぎる行為になると思った私は、スレイバート様の胸を軽く突き放して息を整えた。心臓は、まだ狂ったように脈打っていて、胸元がじっとりとした汗で濡れている。
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