魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 ――すぅ……すぅ……。

 お借りした部屋に着く頃には、私の意識はほとんど闇に落ち込んでいた……。

 「ったく、仕方ねーな」

 それでも、ふかふかしたベッドの感触と、スレイバート様の微かな呆れ声だけは感じて。

「ゆっくり休めよ……。幸せな夢、見れるといいな」

 さらさらと長い髪が零れる音と、瞼をそっと柔らかいものが触れる感触がして、しばらくの後気配が消え、扉がぱたんと閉まった。足音が、ゆっくりと遠ざかってゆく……。



 ――その日……私は彼の言葉通り、とても幸せな夢を見た。

 どこまでも広い、抜けるような青空の下――花畑で、小さくなった自分が走り回っている夢だ。
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