魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 遠くでは、仲良く母と父が座り込んでいる。私はそれに向かって力の限り走っていく。そして母の胸に飛び込むと腕に抱き抱えられ、しばらくの間楽しそうに笑うふたりと他愛のないお喋りをするのだ。

 たったそれだけの、中身のない夢。

 だけれど、翌朝窓から差し込む日差しに照らされて目覚めた私の瞼は、涙でふやけていた。
 夢の中のふたりの顔は、どうしても思い出せない。母はもうおらず、父も今、どうしているか分からない……そのことが無性に寂しい。

 家族を失った事実がこんなにも辛く思えたのは、初めてだ。

「どうして…………こうなっちゃったの」

 温かい陽光に背中を温められながらも、ずっと昔に向き合っておくべきだった耐えがたい心の痛みに……しばし、私は膝の間に顔を埋めた。
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