魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「あの、よろしければこれ……。お口に合うか分からないですけれど、道中でどうぞ」

 そこで遠慮がちに大きめの紙袋を渡してくれたのは、メレーナさんのやや後ろに立っていたフィリアさんだ。中身からは、香ばしい匂いが漂ってくる。朝早くから忙しく働いていると思ったが、旅立つ私たちのために食事まで用意してくれていたらしい。

「うわぁ……いい匂い。嬉しいです……ありがとう」

 その心遣いがありがたく、私がそれをぎゅっと抱き締めると、フィリアさんはにっこりと笑って私に手を差し出してくれた。

「またいつでも来てください。それと……おふたりともどうかお幸せに。私もいつか、スレイバート様のような素敵な人と出会いたいです」

 わずかに頬を赤らめていた彼女のスレイバート様へ向ける羨望の眼差しは、すぐに遠くの他人を見るようなものへと変わり、それに私は少しだけ胸が締め付けられた。

「綺麗で優しいあなたのことだから、いずれ特別な人が見つかるはずだと思います。そうだ……」

 私は隣へ見上げるように目線を送ると、彼と一緒にふたりに向かって頭を下げた。
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