魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 私たちはそれにより……保管していた分の吸収を終えて無害化すると、流通についての詳しい情報を店主から聞き出した。

 なんでもこの塩は、製塩され袋詰めされた後、一旦ゲルシュトナー城に集められ……数ヶ月に一度訪れる精霊の巫女様からの祝福を受けた後、それぞれの市街に卸されることになっているのだとか。
 ならば……呪いのことを信じて貰えるかはどうかとして、理由を付けて倉庫の在庫を確かめさせてもらうくらいのことはできるはず。

 元々――対象を一瞬で死に至らしめる強力な呪いというのはほぼ存在しない。他者を呪い殺すには膨大な負の思念の蓄積が必要となり、それは到底、普通の人間が操り切れるものではないからだ。それを無理に行おうとすれば、制御しきれず自分に跳ね返り、術者自身の精神や肉体が蝕まれることにもなりかねない。事実、スレイバート様にかけられていた呪いでさえも、彼を死に至らしめるのに長い年月を必要とした。

 そしておそらく、今回発見した呪いは、呪殺を目的としたものではないと思われる。この程度の微量な闇の力であれば、せいぜい精神的に少しずつ暗い方向へ引きずられていく程度で済むだろう。けれど、それでも長期間に渡って服用していれば、次第に行動や考え方に影響が出てくる可能性は否めない。

 今日明日これを引き金に何かが起こる、というのは考えづらいが……フィリアさんが言っていたように、一度使うとやめられなくなるという依存性の噂も気になるし、なるべく忠告は早めに行っておくべきだろうと感じた――。
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