魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 目下のところ、緊急性はそこまで感じられず……丁度メレーナさんの示した森も、ゲルシュトナー城に行く間の道中にある様子。そこでスレイバート様としては、私の気持ちを優先してくれることにしたらしい。

「行ってみようぜ。俺も、マルグリットが育ったっていうその森を見てみたいしな」
「はい。実は気になって、うずうずしていたんです」

 捨てられた森で動物達に育てられ、魔女に拾われ――その後国中を救い賢者と崇められたひとりの女性。母の印象がだんだん私の中でくっきりと鮮明になるにつれ、身近で大切な人だと思えるようになってきた。

 そのせいか――今ではわずかにせよ、その森でなにかが起こるのではないか――そんな期待感が胸の中に芽生えている。

「まるで……なにかに導かれてるみてーな」
「…………はい?」
「いいや、なんでも」

 やや難し気な顔をしたスレイバート様は、私の手を引くと領のやや北部、ゲルシュトナー城方面行の馬車に乗り込んだ。
 
 ――その時……明らかに陽光のものではない微かなきらめきが胸に付けた空色のペンダントに走ったのに、私たちが気付くことはなかった。
< 867 / 1,187 >

この作品をシェア

pagetop