魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~

16.隔たれた場所 -sanctuary-

 クラメーアから街ふたつほど移動したところにある大森林。

 そこは……その辺りの人たちに【魂依(たまよ)りの森】、と呼ばれているらしい。
 なんでも、この地方で亡くなった徳の高い人たちの魂がそこの木々に宿り、光の姿となって現れ、時折道に迷った人々を導いてくれるのだそうだ。

 立ち入ってみて、私たちもなるほどと納得する。

 しんとした静けさの中で木々の間を吹き渡るか細い風の音が、たまに誰かの声の様な形で聞こえてきてどきりとする。確かに人ならぬものが棲んでいると言われても、頷ける雰囲気であった。

「ずいぶんとでけー森だし、絶対にそばから離れんなよ。見つけるまでに時間を食いそうだ」
「すごい場所ですね。私たちが、なんてことのない存在だというのが、思い知らされるというか……」

 辺り中に張り巡らされた力強い木の根を、スレイバート様の腕を支えにして何とか乗り越えながら、私たちはメレーナさんの地図の通りに進んでゆく。

 奥に入るほど木々の密度とサイズが増してきて、足の踏み場も減り、何かのはずみでこの地図を失くしてしまったら、空にでも飛び出さない限り抜け出せない自信があって、胃が縮む思いだ。
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