魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 そして時折、獣や魔物も姿を見せるが、食料が豊富にあるせいかほとんど襲ってくることはなかった。スレイバート様の目立つ銀髪を警戒してのことかもしれない。

 どうやら、メレーナさんからいただいた地図は即席のスクロールにもなっているようで、地図が目的地の方角を光の(ライン)で差してくれている。帰りはこれが逆になるように辿ればいいということなのだろう。

 そのまま二、三時間歩くと、魔力の気配が感じられ、視界の端に黄色いものが浮かび始める。そして、折り重なるように斜めに交差した巨木の下を入り口として、ぽっかりと開けた空間が現れた。漂うのは、レモンにも似た爽やかかつ甘い匂い。

「わぁぁ……」
「へぇ……こりゃすごい。天然物でここまでの規模のはそうないだろうな」

 広々とした、燿魔花の花畑が、そこには広がっていたのだった。視界いっぱいに移るそれらは、私たちの膝くらいまでの高さを黄金色に染めている。

 ここに宿る濃密な魔力の気配が、他の植物の生育にも影響を与えているのか、周りを囲む木々や草花も生き生きとしている。
< 869 / 1,187 >

この作品をシェア

pagetop