魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 シリルはぐりぐりと弄ばれた後やっと解放されて赤くなったほっぺたをさすると、自慢の姉の腕にぎゅっとしがみついた。それを、ベリカは眉を吊り上げながらも、振り払おうとはせずに並んで歩きだす。

 シリルは間抜けでぼんやりしたところがあるが、家族を愛する優しい気質の少女だ。こうしてぼんやりさぼっていることも多いが、いつも文句を言わずに母や父の仕事を手伝っている。その優しさは、双子の姉であるベリカにも大きく向けられており、しっかり者で厳しいところのあるこの姉も、あまりできのよくない妹を放っておくこともできず、なにくれと世話を焼いては、可愛がってやっているのだった。

 ベリカは、今も広場で建造が進む大舞台を睨み、鋭く口走る。

「この村は、これからもっと大きくなるでしょう。でも……そうなれば起こるのは、他の村との土地の奪い合いだわ。知ってる? ここからもっと遠くの場所では、うんと大きな村同士が合わさって、『くに』とかいう集まりを起こしたとか。そこでは、村長や巫女ではなく、『おうさま』ってやつがすべてを決めてるらしいわ」
「へー、その人たちは、私たちになにかしてくれるの?」

 不思議そうにしたシリルに、ベリカは苦々しく顔を歪めた。
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