魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 村の外れまで歩いてきていたベリカは、後を追ってきていたシリルの胸倉を掴むと、側にあった大きな木に背中を押し付け、首を締めあげた。

「いいご身分ねえ。たまたま精霊様からいただいたお力で、村人たちからちやほやされて……。ふふふ、さぞかし気分がいいでしょ? 今まで天狗になっていた私を上から見下すのは……」
「う、ぐ……。わ、わたし……そんなこと」
「黙りなさい!」

 ベリカはさらに強く腕に力を込めていく。爪がシリルの首に食い込んで血の玉が膨れ上がっても、それを止めようとはしない。

「ふ、ふふ……笑えばいいんだわ。なんて無様なんでしょうね。死ぬ思いで努力を続けて、まるですべてを手にできていた気分だった私の栄華は、始まらずに終わってしまった。シリル、お前のせいよ……。お前みたいな者がいたせいでッ……!」
「…………うぅっ! や、やめてぇっ!」
「――――っ!」

 苦しげな妹がそう叫んだことで、ようやく自分のしていることに気付いたベリカは指の力を緩めた。しかしもう、彼女は自分の胸にはっきりと妹に対するどうしようもない殺意が渦巻いていることを、自覚せずにはいられなかった。
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