魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 ベリカは怨嗟の籠る目でシリルを見つめると、背を向けた。

「もう、お前なんかとは家族でも何でもないわ! 二度と会うこともないでしょう」
「お、ねえ、ちゃん……」

 ずるずると幹を背に地面に滑り落ち、気を失った妹。それを捨て置いて、ベリカはその場を歩き出す。もう、この村には戻らない。行く宛てもない。自分に付いてきてくれる者も……もういない。

(私は……独りだ。すべてを奪われた。もう、こんな思いをするのは嫌。ならば……今度は奪う側に立つのよ)

 そのことを認識した時……ベリカにも、この場には存在しない、何者かの声が聞こえ始める。

『そうだ……それでいい。お前からなにかを奪おうとする者は、すべて敵だ。ならば消せ。滅ぼし尽くしてしまえばいい……そのための力を、くれてやろう』

 それは人々に幸福をもたらすと信じられている精霊のものとは真逆の、悪しき囁き。

 けれど、ベリカはもうそれでも構わずに、心を委ねる。
< 896 / 1,187 >

この作品をシェア

pagetop