魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 地面に崩れ落ち、かつての幼い母の面影が残る土の上を、涙で濡らし悶える。でもその苦しさすら、私が母から生まれたことの証なんだと思うと、絶対に背を向けたくはない。

 ただただその感情を受け入れ、何度だって胸に刻み込む。その痛みの大きさが、そのまま私がお母さんに向ける想いに違いないから。

 真上から、まるで眠りに誘う前の薄明りのような光が照らした。
 そうして私の頭に……微かだが楽し気な笑い声と、聖域を転げ回り、獣たちと遊ぶ少女の幻影が流れた。

 きっとこれは……幼い頃、ここで暮らしていた頃の、母の……。

「……ありが、とう」

 失われたはずの大切なものの姿を伝えてくれた光は、なにも言わず。

 うずくまる私の背中を穏やかに……泣き止むまでずっと照らし続けていてくれるのだった。
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