魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 曲解したゲルシュトナー公爵の言葉にスレイバート様は「違うからな?」とちらりとこちらに目を向け、私も「分かってます」と視線で頷き返す。誇張された評価にこそばゆくなるばかりだが、これもゲルシュトナー公を懐柔して私の能力を信用させるための口上。ここは我慢だ。

「そこでなのですがね……お気を悪くせずに聞いていただきたい。今回の来訪の途中に、彼女はある恐ろしい異変に気が付きまして」
「ほほう、それはなんですかな?」

 失礼にならないよう努めて丁寧な口調で話していたスレイバート様が、そこでついに、問題の件へと切り込む。

「【精霊の祈り塩】……ご存じかと思いますが、今こちらの貴族の間で話題となっているこの商品に、呪いが掛けられていたようなのです。それも、時間を掛けて人々の心を操り、争いに引きずり込むことを目的としているような。バルテン殿も最近のゲルシュトナー領の状況を鑑みて、心当たりはあるのでは……?」
「ほう……確かに、我々の領地では最近、上層部の関係性は好ましくない。ですが、その原因が塩とは……あれは精霊教会の巫女自ら、祝福の祈祷を成された一品なのですよ?」

 そこでスレイバート様は、さらに踏み込んだ情報を伝えた。

「ゲルシュトナー公も、この帝国を支える重要な支柱のひとりですのでお教えしておきましょう。実は……リュドベルク領の騒動の原因は、その精霊教会の巫女にある。彼女こそが、かの地に大きな災いを呼び込んだ犯人あり、そして私を呪いで苦しめた張本人だったのです!」
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