魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~

21.無色の凶器 -stooges-

「お前たち……この不届き者を捕らえよ!」

 ゲルシュトナー公の合図により、広間に控えていた兵士たちが、一斉にこちらに詰め寄って来る。それだけではなく、後ろの扉からも続々と大挙して雪崩れ込んできた。

「精霊教会は……我が国の国教! その巫女から祝福を賜ったあの品に言いがかりをつけるなど、帝国への背信に他ならぬ! いかに四大公爵家の者だとて、許せぬぞ! 私直々に処断してやる!」

 彼の変化は劇的だった。これまで友好的な姿を取り繕っていた表情は豹変し、なりふり構わず怒りを叩きつけてくる。その背後に、私は膨れ上がるどす黒いものを見た。

 ――影とも靄ともつかない、おぞましいなにか。

「ま、まさか――」

 私は確かめようと、瞳に魔力を集中させ、周囲に首をめぐらした。
 するとそれは部屋中に集まってきた兵士たちも同様で、怒りの満ちた彼らの瞳の奥には、虚無の暗闇がちらついて、恐怖につい叫ぶ。
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