魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 じとーっとした視線をスレイバート様から送られつつ、彼はごほごほと咳を立てて場を仕切り直す。

 まあそんなわけで――領地で一等綺麗な海から取れた特別な塩を作り出し、さあ袋詰めしたら販売開始だとわくわくしていたところに、突如前触れなく、身震いするような出来事が起こったのだとか。

 ――ある日、ゲルシュトナー公が酒を飲んで気持ちよく休もうと思ったところ、寝室に前触れもなく、ヴェロニカの姿が現れていた。

『き、君は……精霊教会の巫女様だったね。どうして……いや、どうやってこんなところに入った?』
『こんばんは、ゲルシュトナー公』

 彼女は虫も殺さぬ笑顔で笑っていたが、それは明らかに異質なことだった。なにせ、城内へはくまなく警備兵が配置され、この寝室の外でも、ふたりの衛兵が見張っているはず。

 平時なら、即座に声を上げて人を呼んでいたはずだ。だが、年端も行かぬ無邪気な少女の外見が、公爵の判断力を奪う。

 その一瞬のすきに、空に浮いたヴェロニカの手は彼の首元に伸び、ぎりぎりと締め上げて来た。
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