魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
『ぐ……ぎ……』

 子どものものと思えないその握力に、声が出すことも振り払うこともできないまま、ゲルシュトナー公の意識は暗くなってゆく。そして彼女の紅い目が、妖しく点滅した。

『ゲルシュトナー公、いいこと? お前は今から、私の操り人形になるの。【精霊の祈り塩】を使って、領民たちの心を、少しずつ闇に染めてゆきなさい。そうすれば、お前の考えている通り、とっても楽で、贅沢な暮らしが送れるわ。わかったわね……?』
『あぐ……そ、んな……こ、と』

 かろうじて、吐息のような言葉を喉から絞り出そうとしたゲルシュトナー公の口の中に、ぬるりとヴェロニカの背中から伸びた影のようなものが、入り込んでくる。

 抗えずに、そのままゲルシュトナー公の意識は数秒で闇に落ち、そして――。

『私に忠誠を誓ってくださる? 東の若き大公爵様』
『仰せのままに、巫女様』

 気が付けば彼女の足元に跪いて、指先に口付けし、ヴェロニカの従順なる配下として服従を誓うことになっていたのだとか。
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