魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
第五部
1.麦焼く薫りに包まれて -don't look down-
ラッフェンハイム帝国は北側でふたつの国家と国土を接している。
そのひとつは、先日ルシドが姉君のアイリーン様を助けるために旅立っていった、セルベリア共和国。広大な国土にまたがる砂漠を利用して、砂船で他の国同士を貿易で繋ぐ国家。こちらは、帝国に対しても、周りの国家に対しても中立の体勢を貫いている。
そしてもうひとつが、ベルージ王国。この国は、ラッフェンハイム帝国と同じように豊かな魔石資源の産出所を国内に有しているのだが、なぜか彼らの国ではあまり魔法士が生まれない。なので、それらを魔法の発展に使うのではなく他国に売却することで資金に換え、国の収益を賄ってきた。しかも恐ろしいことに、近年では他国から奴隷として魔法の能力がある者たちを高額で買い取っているという後ろ暗い噂もある、完全なる敵対国家。
そんな話を前々から聞いていた私はとても平静でいることはできず……。
ゲルシュトナー公から最新の魔道具技術が組み込まれた豪華な馬車を借りてそこからボースウィン領に戻る間も、ずっと心臓が嫌な音を立てていた。
そんな私の手を、道中スレイバート様はずっと握っていてくれたが、彼もまた近づくボースウィン領の方角から目を逸らすことはなく、その表情はいつにない焦りが滲んでいた。
そして、二日と半日後、なんとかボースウィン城に帰り着くことができたのだが……。
そのひとつは、先日ルシドが姉君のアイリーン様を助けるために旅立っていった、セルベリア共和国。広大な国土にまたがる砂漠を利用して、砂船で他の国同士を貿易で繋ぐ国家。こちらは、帝国に対しても、周りの国家に対しても中立の体勢を貫いている。
そしてもうひとつが、ベルージ王国。この国は、ラッフェンハイム帝国と同じように豊かな魔石資源の産出所を国内に有しているのだが、なぜか彼らの国ではあまり魔法士が生まれない。なので、それらを魔法の発展に使うのではなく他国に売却することで資金に換え、国の収益を賄ってきた。しかも恐ろしいことに、近年では他国から奴隷として魔法の能力がある者たちを高額で買い取っているという後ろ暗い噂もある、完全なる敵対国家。
そんな話を前々から聞いていた私はとても平静でいることはできず……。
ゲルシュトナー公から最新の魔道具技術が組み込まれた豪華な馬車を借りてそこからボースウィン領に戻る間も、ずっと心臓が嫌な音を立てていた。
そんな私の手を、道中スレイバート様はずっと握っていてくれたが、彼もまた近づくボースウィン領の方角から目を逸らすことはなく、その表情はいつにない焦りが滲んでいた。
そして、二日と半日後、なんとかボースウィン城に帰り着くことができたのだが……。