魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「――閣下!」

 到着するなり、馬車から飛び出すようにして降りた私たちを大声で出迎えたのは、領主補佐のクラウスさんだ。普段の飄々とした雰囲気が消えた彼の険しい顔立ちも、かかる事態の重大さを物語っている。

「困りますよ、こんなに長い間留守にされては! それにシルウィー様まで……。いや、今はその話は後だ。とんでもないことが起こったんです!」
「ああ。ゲルシュトナー公から聞いてる。ベルージ王国が宣戦布告したってな」
「…………ええ、その通りです」

 それを聞いたクラウスさんは、主だった臣下たちを集めた会議室に足を向けるスレイバート様に着き従うと、状況を説明していく。

「約一週間前、あちらに潜入していた密偵から突如国境付近にベルージ王国が兵を進め始めたと報告がありました。そして三日前の宣戦布告。今では続々と、クリム殿率いる帝国最北端――イシュボア侯爵統治区の国境線に、敵軍部隊が集合しているようです。おそらく、ここ数日の間に戦端が開かれるでしょう。こちらも各地から援軍を編成して対処にあたるつもりですが、敵軍もかなりの規模らしく……」

 今だかつてないほどの強大な陣容らしく、相手軍が勝利の算段をつけて攻めてきているというクラウスさんの言葉に、私はさらに血の気が引いた。足を悪くしていた老齢のクリム様も前線指揮に出向かれたらしく、まさか、彼が引退寸前のこんな時に……。
< 956 / 1,187 >

この作品をシェア

pagetop