魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「ええと……善処します」
「確約はしてくれないんですね……」

 彼はがっかりとした様子で項垂れ、そんな様子に私たちはわずかに軽くなった気分で笑みを覗かせつつ、会議室の扉を開けた。
 そこでは、すでに重要な臣下の方々が集まっており、すぐにでも会議が始まりそうな雰囲気だった。これ以上私がいても邪魔になるだけだ。

「……では、私はこれで」
「待った」

 先にクラウスさんが部屋に入り、スレイバート様の到着を知らせる中。腕に添えていた手を離し、私が立ち去ろうとすると――

「おそらく、翌朝にも発つことになる。だから――今夜、時間をくれ」

 肩をがっと掴まれ……耳の隣に近づいた彼の唇から、密やかな囁きが漏れた。
 それきり背中は翻り、室内へと消えてゆく。

(…………そうだ。私も話さなきゃいけないことがあるんだ)
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